Column22 (11/16):公共調達に関する制度(英国)
これまでのColumnでは、諸外国の公共調達に関わる取組として、米国連邦政府の取組を取り上げてきました。
今回は、英国中央政府の公共調達に関わる取組について紹介します。
はじめに、英国中央政府における調達の基本的な考え方は、「Value for Money(以下では「VFM」と略称)」、つまり、支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するというものです。
このVFMは、特別な事情がない限り、競争により達成されると考えられています。
制度としては、2014年改定のEU指令に即して定められた2015年公共契約規則(Public Contracts Regulations 2015)があります。この規則は一定金額以上の調達にのみ適用され、金額は覚書(Note)で定められています。
2015年公共契約規則は、企業が調達案件にアクセスし易くなるよう(特に中小企業が公共調達にアクセスし易くなるよう)主に以下の点が改正されています。
・EU指令で定められている閾値以下の調達において、競争参加者を絞り込むために実施していた、調達内容等に係る参加者の理解度や能力、経歴等を審査する予備審査(Pre-Qualification)を廃止すること
・EU指令で定められている閾値以上の調達において、内閣府が作成する品質に係るガイドラインを考慮すること
・統一的なサイト(Contract Finder)で公共調達の情報を提供すること
・すべての公共調達において(サプライチェーン全体で)迅速な支払いを行うこと
3番目の主な改正点である、統一的なサイト(Contract Finder)の運営においては、調達案件によりアクセスし易いよう、公開対象とする調達案件の金額を、EU指令で定められている閾値よりも低い金額に設定しています。
なお、2015年公共契約規則以外にも、防衛や治安に関わる調達案件に適用される規則(Defence and Security Public Contracts Regulations 2011)や、公益事業の契約に適用される規則(Utilities Contracts Regulations 2016)、一定金額以上のコンセッションに適用される規則(Concession Contracts Regulations 2016)等もあります。
上記制度の確実な履行に向け、内閣府が所管するエージェンシー(executive agency)の一つ、Crown Commercial Serviceでは、ガイダンスやハンドブック等を作成するとともに、公的部門の担当者に対して200回以上の対面でのセッションを開催しています。
日本の制度については、Column2「公共調達に関する制度」で紹介したとおり、国が外部からモノやサービス等を調達する時の内部手続は、主に会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)、予算決算及び会計令臨時特例(昭和21年勅令第558号)及びこれに基づく省令で定められています。(地方公共団体は地方自治法等で規定されています。)
これらの規定は、発注官庁が、調達を公正かつ厳正に行うことに加えて、効率的に予算を執行すること、つまり、調達において経済性を確保することを求めていますが、英国のVFMのように、規則レベルで、支払い(Money)に対して最も価値の高いという、Valueの考え方が明確に示されているとは言えません(内閣官房が所管する「調達改善の取組」の指針においては、「調達改善の取組は、限られた財源の中で政策効果を最大限向上させるため、政策の遂行に必要な財・サービスの調達を費用対効果において優れたものとすることを基本的な理念としている」といったように、費用対効果の考え方が明確化されています。)。
もちろん、日本にも、価格だけを評価する最低価格落札方式だけでなく、価格と価格以外の要素を総合的に評価する総合評価落札方式等は存在しますが、規則レベルでValueの考え方が示されているとは言えないでしょう。
(参考資料)
Crown Commercial Serviceウェブサイト
Social Policy Lab㈱
川澤良子
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