Column11 (09/28)：障害者就労施設等からの物品等の調達

公共調達では、調達における公正性、厳正性及び経済性を確保することが求められています。さらに、このような、公正性・厳正性と経済性の調和を前提として、一定の政策目的を達成するための配慮を行うことも求められています。様々な政策的目的を実現するために契約の場を活用すること、いわゆる「付帯的政策」の推進が求められているのです。

このような一定の政策目的を達成するために公共調達を活用する手法は、日本で様々な形で行われています。Column6「女性活躍推進に向けた公共調達の活用（1）」、Column8「女性活躍推進に向けた公共調達の活用（2）」では、女性活躍推進に向けた公共調達の活用を紹介しました。今回は、その他の取組として、障害者就労施設等で就労する障がい者、在宅就業障がい者等の自立促進に向けた公共調達の活用を紹介します。

はじめに、障害者就労施設等で就労する障がい者、在宅就業障がい者等の自立促進に向けた公共調達に関わる制度として、国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律（平成25年4月1日施行、以下「障害者優先調達推進法」という。）があります。

障害者優先調達推進法では、国及び独立行政法人等が、物品及び役務（以下「物品等」という。）を調達する際、予算の適正な使用に留意しつつ、優先的に障害者就労施設等から物品等を調達するよう努めることや、地方公共団体及び地方独立行政法人が、障害者就労施設等の受注機会の増大を図るための措置を講ずるよう努めること等が定められています。

具体的には、以下の3点に取り組むこととされています（厳密には、国及び独立行政法人と地方公共団体及び地方独立行政法人が取り組む内容に違いはありますが、大きくは、いずれも以下の3点に取り組むこととされています。）。

＜障害者優先調達推進法の主な内容＞
1．調達の方針を策定・公表し、調達実績を公表すること
2．公契約（注1）において障害者の就業を促進するための措置を講ずるよう努めること
3．障害者就労施設等が供給する物品等に関する情報を提供すること

ここでは、「1．調達の方針を策定・公表し、調達実績を公表すること」の調達実績に注目してみます。

厚生労働省のウェブサイトでは、調達実績として、「a．調達金額」や「b．取組事例」が紹介されています。

a．調達金額
厚生労働省のウェブサイトで公表されている最新の調達実績（平成26年度）は、国及び独立行政法人等で約14.6億円、地方公共団体及び地方独立行政法人で約136.7億円です。

Column1「公共調達の規模」で紹介したとおり、国の調達規模（少額随意契約等を除く支出原因契約）は、平成26年度で約8兆3,000億円ですので、障害者就労施設等で就労する障がい者、在宅就業障がい者等の自立促進に向けた公共調達の活用の規模はごく僅かと言えるでしょう。

ただ、そもそも国よりも地方公共団体及び地方独立行政法人が実績全体の約90%を占め、特に、市区町村（106.1億円）が、実績全体の約70%と、最も高い割合となっています。現時点では、国よりも地方公共団体の取組が進んでいる施策だと言えます。

b．取組事例
厚生労働省のウェブサイトでは、国の取組事例と地方公共団体の取組事例が紹介されています。この事例紹介のなかで特筆すべきは、一部の事例紹介で、定性的ではありますが、以下のように、公共調達を活用した効果が示されている点です。

＜地方公共団体の取組事例（兵庫県西宮市「清掃業務等の発注事例」）（一部抜粋）＞
◎優先発注の効果
・就労機会の増加により、障害者就労施設等利用者（以下「利用者」）の就労に対する意欲の向上や自信に繋がり、市内福祉施設等から一般就労へ移行した例も見られます。
・多様な現場（学校・河川敷・公園等）において清掃業務等に一生懸命取り組む利用者の姿勢が、発注元や地域住民等の障害者就労に対する理解を促進しています。

障害者優先調達推進法では、調達実績の公表等を求めていますが、取組の効果検証を実施することまでは求めていません。ただ、Column5「HUBZone Program （米国）」でも言及したとおり、近年、公共調達を活用した取組が積極的に推進される一方で、特定の政策目的を達成するためには、税制優遇等、公共調達以外の様々な政策手段が考えられるなか、公共調達を活用することの有効性を検討することは重要だと思います。

（参考資料）
厚生労働省ウェブサイト「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律について」
川澤良子「公共調達を活用した取組の有効性の検証」（2015年1月9日）三菱UFJリサーチ＆コンサルティング　サーチ・ナウ

Social Policy Lab㈱
川澤良子