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2017-06-01

Column51 (06/01):公共調達における戦略(EU)(2)

Column46「公共調達における戦略(EU)(1)」では、EUの公共調達における戦略の一つとして、環境に配慮したグリーン調達や、社会に対するインパクトに配慮した社会的調達、現時点では大規模な商業化は難しい革新的なモノやサービスを調達するイノベーション調達といった「戦略的調達(Strategic Procurement)」が推進されていることを紹介しました。

今回は、EUの戦略的調達に係る調査結果を紹介します。

EUの調査レポート“Strategic use of public procurement in promoting green, social and innovation policies”は、EU加盟国10カ国(オーストリア、フランス、ラトビア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、イギリス)を対象に、各国の戦略的調達の取組状況を、文献調査、データ分析、インタビュー調査により取りまとめたものです。

文献調査では、各国の戦略的調達の制度化の状況を比較しています。

ここでいう制度とは、以下の3つに該当することを意味しています。

1.アクションプランや戦略を策定していること
2.戦略的調達についてEU指令以外の特別法があること
3.教育訓練や類似の取組について正式な枠組みがあること

調査対象国10カ国におけるグリーン調達、社会的調達、イノベーション調達それぞれの制度化の状況は以下のとおりです。

〇グリーン調達
・戦略的調達のなかでも最も古くから取り組まれている分野で、調査対象10カ国のうち9カ国は、2000年代半ばからグリーン調達に取り組んでいる。
・調査対象国のいずれにおいてもアクションプランや特別法が制定されている。
・ただし、各国の間で、グリーン調達の範囲等、取組の程度に多少の違いは見られる。

〇社会的調達
・導入時期は2010年代初とグリーン調達よりも遅い。
・調査委対象国のうち、6カ国で何らかの制度が整備されている(社会的調達に係る目標設定等)。
・ただし、グリーン調達、イノベーション調達に比べて、制度化の状況は一様ではない。例えば、フランス、ポーランドの社会的調達に係る戦略は、戦略的調達という枠組みの下、グリーン調達のアクションプランのなかに含まれているが、イギリスではSocial Value Actのなかでサービスの社会的調達について別に規定している。

〇イノベーション調達
・グリーン調達に次いで制度化が進んでおり、7カ国で制度が整備されている。
・ただし、グリーン調達と異なり、2010年代から制度化が進められている(ただし、イギリス、スウェーデン、オランダは2000年代もしくはそれ以前から取り組んでいる)。
・また、社会的調達と同様、制度化の状況は一様ではない。例えば、オーストリアではイノベーション調達のアクションプランがある一方、フランスやポーランドでは成長や競争に係る政策の一項目という位置づけである。さらに、各国独自の取組以外に、EUでイノベーション調達に係るプロジェクトが進められており、複数の国が同プロジェクトに参画している。

日本でも、グリーン調達については、Column19「グリーン調達(1)」Column21「グリーン調達(2)」で紹介したように、グリーン調達に係る特別法が整備され、運用が進められています。

一方、女性活躍推進等の社会的インパクトを考慮した社会的調達は、ここ数年で取組が活発になってきました。

また、イノベーション調達については、諸外国で取り組まれているような制度は整備されていません(※)。

※日本では、中小企業に限定した制度として、中小企業技術革新制度(中小企業者及び事業を営んでいない個人の新たな事業活動の促進を図る制度)があります。この制度に基づき補助金等の交付を受けた中小企業者は、参加しようとする入札等で技術力を証明できれば、入札参加資格のランクや過去の納入実績にかかわらず、入札参加が可能になる特例措置が講じられます。

公共調達を戦略的に活用する取組は、日本を含む様々な国で広がっているものの、取組の程度や制度の在り方に違いがあると言えます。

上記レポートの調査結果については、引き続き、紹介したいと思います。

(出典)
EUウェブサイト
中小企業庁ウェブサイト

Social Policy Lab㈱
川澤良子

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