Column3 (08/23):公共調達における付帯的政策(1)(米国)
公共調達では、調達における公正性、厳正性及び経済性を確保することが求められています。さらに、このような、公正性・厳正性と経済性の調和を前提として、一定の政策目的を達成するための配慮を行うことも求められています。様々な政策的目的を実現するために契約の場を活用すること、いわゆる「付帯的政策」の推進が求められているのです。別の言い方をすれば、一定の政策目的を達成するための「誘導」として、公共調達というインセンティブが付与されているとも言えます。
このような一定の政策目的を達成するために公共調達を活用する手法は、日本だけで行われているのでしょうか?それとも、諸外国でも行われているのでしょうか?
答えは、諸外国でも行われています。そこで、今回は米国連邦政府における取組を紹介します。
米国連邦政府は、毎年、約4,000億ドルの物品やサービスを調達しています。これらの調達に係る手続を規定しているのは、主に連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation、以下、「FAR」という)です。米国連邦政府では、例えば、中小企業の競争力を向上させるという政策目的を達成するため、一定金額の物品やサービスの調達において、一定条件を満たす中小企業と優先的に契約できることをFARで規定しています。
具体的には、FAR第19章5において、契約担当官は、3,000ドル~150,000ドルの調達について(一部例外あり)、set-aside(中小企業向けの留保)を適用し、自動的に中小企業との契約を締結することが義務付けられています。ただし、契約の締結は、契約担当官が、市場価格や質、配送の点で、競合する2者以上の中小企業からの見積や提案が期待できると判断した場合に限るという2者ルールも存在します。
履行可能な中小企業が1者存在すれば良いのではなく、履行可能な中小企業が複数存在し、競争環境が維持される物品やサービスについては、優先的な調達を認めるといった取組が行われているのです(一部例外があり、単独契約(sole selection)が認められる場合もあります)。なお、このようなset-asideの適用について、1者あたりの契約件数や金額に上限は設定されていません。
<金額基準>
・3,500ドル~150,000ドルの調達: 自動的かつ排他的に中小企業との契約を行うことを義務付け。ただし、契約を締結するためには、市場価格、質、配送の点で競争関係にあり、履行可能な中小企業が2者以上存在しなくてはいけない(2社ルールが存在)。
・150,000ドル超の調達: 2社ルールを満たせば、中小企業からの優先的な調達を推奨。
・700,000ドル超又は工事15億ドル超の調達: 再委託を行う場合、中小企業への再委託計画の作成を義務付け。中小企業への再委託計画では、中小企業や条件不利な中小企業、HUBZone企業、退役軍人所有の中小企業との再委託の目標を設定。
なお、set-asideの対象となる中小企業は、一定条件を満たす中小企業のみです。具体的には、以下のプログラム・カテゴリーの対象となっている中小企業になります。
<set-asideの対象>
・8(a)Business Development
・HUBZone Program
・Woman Owned Small Business Program(includes Economically Disadvantaged Woman Owned Small Business concerns)
・Service Disabled Veteran Owned Program
このような一定金額の物品やサービスにおける優先的な契約により、米国連邦政府全体として、(元請)契約金額の23%を中小企業と契約締結すること、また、4つのカテゴリーごとの目標も設定されています。
<契約目標>
・Small Business: 23%
・Women Owned Small Business: 5%
・Small Disadvantaged Business: 5%
・Service Disabled Veteran Owned Small Business: 3%
・HUBZone: 3%
以上のように、米国連邦政府では、中小企業の競争力向上という政策目的を達成するため、一定金額及び一定条件を満たす中小企業と優先的に契約を締結する取組が行われています。この取組の対象となる中小企業の具体的な要件等については、改めて紹介します。
(参考資料)
U.S. Small Business Administrationウェブサイト
Federal Acquisition Regulation
Social Policy Lab㈱
川澤良子
もう何年も前の投稿のようですが、「付帯的政策」をググってこちらにたどり着きました。
「公正性・厳正性と経済性の調和を前提として、一定の政策目的を達成するための配慮を行うことも求められています。・・・「付帯的政策」の推進が求められている」とありますが、
私は今まで、財務省主計局による会計制度研究会の報告「会計制度(契約)に関する論点について」(令和元年6月)で紹介されている「契約の実行を通じて、一定の行政目的を達しようとするような内容を含むことは、契約制度の本旨にもとるものといわなければならない」という見解に同調していました。
それが、「求められている」と、今公共調達の場で現に推進されていることが(市民が)求めていることなのだ、とする見解は、新鮮でした。
特に、会計法29条の6第2項や地方自治法施行令167条の10の2に基づく「総合評価」方式に「付帯的政策」をもちいるのは、非常に問題があると考えています(国で言えば、平成12年3月23日の大蔵大臣との包括協議を逸脱することになる)。
お考えをお聞かせいただけると幸いです。
「付帯的政策」について論じた研究などについてもご教示いただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。